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◇ドロボー 第4話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-03-09 08:18:00

4

「休日なのに、また今日も出かけるの?」

私と一緒にいるよりも楽しい場所と楽しい人がいるんだね、たぶん。

「うん、前からの約束だからさ。行ってくる。

あぁ、晩御飯いらないから……。それじゃ」

「待ち合わせの人ってアノ真知子ちゃんなんだね」

「へっ? ま、ま、マチコぉ~?」

『とぼけなくていいわよ。

真知子ちゃんとデートするって、あなたが言ってたんだよ?』

酔っぱらってた日にね。

知紘は首を傾げながら知らないふうで玄関を出て行った。

今にも私は田中真知子ちゃんに夫を取られそうだ。

夫の様子から、このままだと取られそうなどと甘いこと

言ってられないと思った。

この勢いで夫を……知紘を寝とられるかもしれない、そう思えたから。

その月の残りの土日併せた休日の4日間、夫が家で寛いだ日は

1日もなかった。

月が替わった頃、ふと思い立ち野球部が公開している

インスタグラムを見てみた。

知紘がある女性の肩を抱き寄せて映っている画像を目にする。

美鈴は、この人物がたぶん田中真知子なのだと直感した。

そこでハタと閃き、今度は『田中真知子』インスタグラムと検索してみると、彼女はインスタを公開していた。

驚くべきことに彼女個人のインスタにちゃっかりと知紘は恋人でもあるかのよう

にパソコンの画面の中に……インスタの画像2枚に、楽し気な様子で映り込んで

いた。

そこは、あきらかに部屋の中だった。

部屋の中で撮影したものだ。

しかも周囲に野球の関係者は見当たらない。

私は思わず叫んでいた。

『真知子、それは私の夫よ。返して~』

ねねね、ちょっと、酷くない?

奥さんのいる旦那を取るなんて……人のモノを盗るなんてドロボーじゃない? そう、ドロボーよぉ。

『真知子の泥棒~』

部屋の中で私の声が空しく響く。

          ◇ ◇ ◇ ◇

翌月の休日も夫は家に留まることなく、ウキウキと出かけて行った。

堪り兼ねて、2週目の休日に引き留めてみた。

◇寂しい

「チーちゃん、たまには一緒に過ごそうよ。寂しいよ」

「ごめん。だけど今は野球部のメンバーと親交深めときたいんだよね。

やっぱり試合の時にものすごく効いてくるからさ。

寂しい思いさせてごめんね。

アレだよ、今日は夕飯作んなくていいし家のことも適当にしてさ、たまには

ゆっくりすればいいよ。

俺、飯は外で食うかコンビニで間に合わせるから、気にしないで

見たかった映画とか観たらいいよ」

「そっか。やっぱり出かけるのね。分かった。

そんじゃあ、お言葉に甘えて私はまったりと映画鑑賞でもするわ」

『独りだとつまんないけど』

「うん、それがいいよ。独りだとあれだよ、泣ける話がいいんじゃね。

思いっきり泣けるヤツな」

知紘はうれしそうにそんなふうなことを私に言い、軽やかに出かけて行った。

あの嬉しそうな笑顔は、つい最近まで一緒に過ごす私に

向けられていたものなのに。

今しがたも向けられたけれど、意味が違う。

私と一緒に居られて嬉しいの顔じゃなくて、私と居なくて済むから

嬉しいの顔だもの。

以前と今とじゃ、意味合いが真逆になってしまっている。

私の悲しい気持ちも……寂しい気持ちも……何も知紘には響かない。

今の夫は箍が外れ調子に乗って、浮かれてる。

不倫一歩手前、片足突っ込んでいる状態。

いや、そう思いたいだけですでに両足、ズブズブかもしれない。

結局翌月も、そう、知紘と真知子が出会ってから2か月目の末日になっても

状況はなんら変わらなかった。

今の夫を見ているとまるで遠い日の、自分に夢中になっていたときと同じだ。

私にも毎日のように会いたがり、熱々だった頃のことが蘇る。

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    89 「わぁ~、あたし、どうしよう。酔っぱらってきちゃったー。 もう飲めないよ。私の代わりに綺羅々飲んで」 「はいはい、何言っちゃってるんだぁ~。天下の奈羅様が。 もっと飲めるだろ? はーい、どんどんいっちゃって」 「きついって」 そう言いながら俺がコップに酒を注ぐと奈羅は上目使いに俺のことを 見つめて、グイっと酒をあおった。 『いいぞー、その調子だ。ドンドンいけー。何も考えずガンガン飲めー』 見ていてもかなり酔っているのが分かる頃、俺は悲し気に言った。 「俺、薔薇のことが好きだったんだよね」「ん? 薔薇は……だけど薔薇はいなくなっちゃったんでしょ。 もう忘れなよ。あたしが慰めたげるからさ」 「そうだよね。ありがとーね、奈羅」「ふふん、どういたしまして」 『もうフラフラだな、コイツ』 「かなり酔ってるみたいだし、どこかで今夜は泊まって明日帰るとしますか」「はーい、さんせーい」 会計を済ませ予めとっておいたアンモデーション《宿泊施設》の 505号室に入室した。 入室すると同時に彼女はトイレに駆け込んだ。トイレの隣にある浴室を開けて確認すると稀良がちゃんと予定通り 待機していた。俺たちは改めてアイコンタクトを交わす。 「ごめんなさい、飲み過ぎたみたい。 でも、少しだけ横になったら大丈夫だと思うのよ」 「OK.じゃあその間、俺シャワーしとくよ。お先に」 俺は奈羅がベッドに横になるのを確認し、シャワールームに向かった。 実際にシャワーを浴びるのは稀良の方だ。 その間、俺はシャワールームの前で待つ。シャワーの音が止まるのを合図に上着をドア横のハンガーに掛け、 奈羅の横たわるベッドの側まで行く。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇嵌めてやろうか 第88話

    88    ―――――――― 攻略《罠》―――――――――俺はラボ内で奈羅を見つけ、飲みに行かないかと誘った。俺が真実を知っていて彼女を恨んでいるなんて知らない奈羅は、ノコノコとパブに1人でやって来た。「綺羅々が誘ってくれるなんて、あたしびっくりしちゃった。うれしー」「久しぶりだよね。あれから半年振りくらいかな。あんなことがあったのに俺、冷た過ぎたかも。何となく気になって連絡してみた。元気だった? もういいヤツ《彼》できた?」「う~ん、男友達は何人かできたけど、彼氏はまだかな」「じゃあ俺と酒飲んでも大丈夫かな」「勿論、誘ってくれてうれしかったわ」薔薇に酷い仕打ちをして悲しませた女が目の前にいる。俺は実りそうだった恋をこの女の罠でぶち壊された。今に見てろ! 俺の誘いをすっかり俺からの好意だと思い込んでいるこの勘違い女を驚かせてやろう。こんな女のこと……少しは驚くかもしれないが、さてどうだろうな。しばらくすれば落ち着きを取り戻し案外楽しむ感覚になるだけかもしれない。だが、俺に嵌められたかもしれないことはいつまでもこの女の心に残るだろ? それだけでもいいさ、何もしないよりは。つまらないことをしようとしている自覚は大いにある。俺は話題が途切れないようポツポツとだが奈羅に話し掛け、時間をかけた。何のって? 勿論、酒をどんどん勧めて酔い潰すためさ。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇攻略 第87話

    87その次にきた波が俺を襲う。 「稀良《ケラ》、俺は奈羅にお前を勧めて紹介できるほど親しくはない けど、お前の気持ちを成就させるための協力はできるかもしれない。 少々荒療治かもしれんが……」「どんな?」『――――――――――――――――――――』 あとは知らん、野となれ山となれ戦法だな。少々強硬手段だが上手くいくかも……もしくはいかないかも。 「いや、そんな強硬路線じゃなくてまずはデートに誘いたいっていうか、 交際の申し込みをだな……」 「俺だって親しくないんだから自分のことならいざ知らずお前の代弁とか 無理……」チャラ男のくせに目の前の男は度胸がなさそうだ。 「こうすればいいじゃないか。イタす前に了解取れば。 『いいのか?ってさ』 録音でもしとけば証拠になるだろ? それを聞けば彼女だってお前を責められないだろうし、ある意味合意 なんだからお前だって自責の念にかられることもないだろ? そのあとなら一度や二度断られてもアプローチしやすいだろ?」 「だけど一度パブで同席しただけの俺に一緒にその……部屋まで付いてきて くれるかな。自信ない」 「そこは大丈夫。部屋までは俺が連れてく。 そこのところで協力できるからこその俺の提案、この案はね」 「親しくないと言いながらそこは自信があるって……えっ?  そういうこと?」 「はっ?」「彼女、お前とならアンモデーション《宿泊施設》に簡単に付いて来るって こと?」「う~ん、どうだろう簡単ではないかも。五分五分だな」 「ちょっ……ちょっと待ってくれ。 そういうことなら俺の出るまくねえじゃん」「いやいや、出てくれよ頼むよ、ぜひとも。俺、実は彼女から同じようなことされてさ、心臓止まりそうになったこと あるんだよ。だからお前の話聞いてリベンジしたくなったんだよなー。 俺もヤツ《奈羅》の心臓止めたいんだよっ。 そのせいで好きな彼女に失恋した」「恨んでるんだー」 「あーぁ、恨んでるね。 本当なら彼女Loveのお前じゃなくてどこぞの荒くれどもにその役を 任せたいくらい気分なんだよ」「あー、その役どうかどうか荒くれどもじゃなくて、俺に、この俺に してくだせー、綺羅々様」 今回のシナリオは前から考えていたわけじゃない。薔薇を失った絶望感が大き過ぎて、奈羅への復讐

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇綺羅々の復讐 第86話

    86 あの日、どういうことで奈羅に付いて行ったのか? アンモデーション《宿泊施設》の同じ部屋で、まるで2人の間に何かあったかのような怪しい雰囲気の映像が無断で撮られ薔薇に送り付けられていたわけで、明らかに確信犯的犯行と思わざるを得ない。薔薇が地球上での生が終わるのを待ち、ようやく元の同じ場所同じ時間軸に連れ戻せると期待して次元と時空の狭間で待ち受け、そして望み通り薔薇を見つけることができたのに……行き違いがあったとはいえ金星でお互いが両片想いだったこともようやく確認し合えたというのに……なんと薔薇には自分との前世よりももっと遥か彼方より契りを交わしていた愛しき男がいたというではないか。探して追いかけて待って待ち続けた結果が、予想もしてなかった結果に綺羅々は男泣きをした。そして絶望に襲われた時、綺羅々の胸に憎悪とともに仄暗い感情が芽生えた。          ◇ ◇ ◇ ◇綺羅々は薔薇が金星からいなくなったしまった日から、地球上の時間軸で計るなら半年しか経っていないところへと戻った。バーの片隅で酒を飲んでいるところへ見知ったヤツ、稀良《ケラ》が隣に座った。久しぶりだな綺羅々。最近見かけなかったけど元気だった?……ってあんまり元気そうじゃないな。別の日にしたほうがいいかな。「いや、構わないさ。で、何?」「奈羅と少しくらい交流あったりする?」「あったらどうすんの?」「取り持ってもらえないかと思ってさ」腸煮えくりかえるほどの名前を耳にし、思わず綺羅々は平常心を失くすところだった。「で、いつから? 彼女と同じラボ《研究室》になって1年弱だろ」「いやさぁ、それがつい最近深夜に連れとパブに繰り出したらちょうど奈羅も友達と来ていて明け方まで相席して盛り上がったっていうか」「ふーん、それで?」「なんか、いいなぁ~って思ってさ。ただ何となく素面で誘うのって苦手なんだよな」「話が見えない……。俺に相談? 何の?」『交流あったりする?』の質問にあるともないとも答えられるはずもない綺羅々は、相手の意図するところを探ってみる。「あれから気になって、奈羅のこと」目の前のチャラ男はらしくない発言をする。目の下と首筋がほんのりと赤いじゃないか。本気なのか? それにしても奈羅の二文字を聞かされた俺はというと、吐き気がし

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇憎悪が膨らむ 第85話

    85「だけど、一緒には行けない。私ね、地球に産まれて永遠のパートナーがいることを知ったの。その人《夫》と長い長い気の遠くなるくらい長い時を経てまた巡り逢えて、その夫だった圭司さんが迎えに来ることになってるの。彼がね、今際の際『この世とあの世の狭間に行くことができたらそこで待っててほしい。必ず迎えに行くから』って言ったの。だから、私はここでずっと彼を待ってなきゃいけないの。綺羅々、私のことは忘れていい女性《ひと》見つけて」お互いの行き違いのあった気持ち、そして美鈴とは両片想いだったことの確認もできた。だけど、自分との出会いのあとで永遠のパートナーに出会ったという。このことが綺羅々にとっては、返す返すも悔しいことだった。綺羅々は思わず薔薇の腕を取り、再度自分の気持ちを伝えた。「僕との金星での一生を終えてからその人とまた再会すればいいんじゃない? その人はまた少しくらいなら待っててくれそうじゃない?」そう薔薇の気持ちに揺さぶりをかけてみるも彼女は首を縦に振らない。綺羅々が彼女のことを想い切れずに腕を放さないで佇んでいると……。1人の男《根本圭司》が薔薇の腕から綺羅々の手を振りほどくと「悪いね、彼女を俺に返して」と言い放ち、薔薇を抱きしめて言った。「待たせてごめん。心配したろ? 不安にさせてごめん」そうやって男は薔薇に謝りながら肩を抱き、綺羅々の前から立ち去った。自分だってどんなに薔薇を好きだっか。ずっと薔薇が人間としての一生を終えるのを待っていたのに。交際をして妻になってもらいたいと思っていたのに。こんな結末が待っていようとは……。思えば思うほどひたすらに奈羅のことが呪わしく、心の中で彼女への憎悪が膨らんでいくのを止められなかった。そして綺羅々は失意のうちに宇宙船に乗船し、金星へと戻って行くのだった。

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